SHRIMP ENCYCLOPEDIA / HISTORY
チェリーシュリンプの品種改良史 ―2026年現在概論―
CHERRY SHRIMP — HISTORY & ORIGIN
チェリーシュリンプの品種改良史 ― 年代からFamily Treeを読み直す

チェリーシュリンプには、赤、黄、オレンジ、青、緑、黒など、現在では非常に多くの品種が存在します。
しかし、これらの品種について、ビーシュリンプ系のように作出者や作出経緯(血統)まで明確に確認できる例はそれほど多くありません。
作出の経緯そのものが明かされていなかったり、記録がはっきりしていなかったり、同じ品種について複数の説が残っていたりすることも、チェリーシュリンプ系の特徴のひとつです。
この背景には、チェリーシュリンプの品種改良、特に2010年頃までの初期育種を牽引してきた台湾の育種環境が関係しているのではないかと考えています。
台湾では観賞用エビの育種が国レベルで推進され、研究機関や産業界を含めて新品種の育成・産業化が進められてきました。
そのような環境の中では、現在のように「一人のブリーダーが一つの血統を作り上げ、その血統を明確に管理する」という形だけではなく、業者間・ブリーダー間で育種情報や、新しい品種が生まれる母体となり得る育種群が、ある程度共有されていたのではないか?、その結果として、作出者を確定すること自体が、必ずしも重要視されていなかったのではないかと推測しています。
後ほど触れるレッドルリーシュリンプのように、作出者については比較的はっきりしているにもかかわらず、その個人や会社が品種を独占的に販売することなく、特定のブリーダー名を冠した「ブランド」として管理されていない例もあります。
そのような状況ではありますが、それでも欧米を中心に、その血統については長年にわたって議論されてきました。
そうした情報を積み重ねる中で、「おおむねこのような関係ではないか」と広く受け入れられてきたFamily Tree(系統図)があります。
それらを整理すると、おおむね下の図のようになります。

(クリックで拡大)
このように、一度系統図として整理することは、現在流通している品種同士の関係を理解するうえで非常に有用です。
大きな流れを見る限り、一般的に認知されているFamily Treeは、実際に確認できる育種記録ともかなりよく一致しています。
ただし、こうした系統図が整理されてからすでに10年以上が経過しています。
現在あらためて見直してみると、いくつか疑問が生じる部分もあります。
特に大きいのが、「それぞれの品種は、いつ頃現れたのか」という時間の流れが系統図にはほとんど示されていないことです。
そのため、年代を追って資料を並べてみると、前後関係が矛盾するように見える育種の話が伝えられている場合もあります。
さらに過去の資料を調べていくと、現在では別々の品種名として扱われている名称が、当時はグレードや流通名として使われていた可能性があったり、同じ品種について複数の起源説が残っていたりすることも分かってきました。
そこで本稿では、台湾の公的資料、当時の報道や飼育記録、ブリーダーの発表、欧州での流通・品評会記録など、現在確認できる資料を年代順に並べてみます。
そして最後に、そこから見えてきた年代と複数の起源説を一般的なFamily Treeへ重ね、AtWellなりにチェリーシュリンプの品種改良史を整理してみたいと思います。
2000年代 ― 赤いNeocaridinaの選別から始まる
チェリーシュリンプの品種改良史は、赤系から始まりました。
そもそも「チェリー(さくらんぼ)シュリンプ」という名前が示す通り、最初期のチェリーシュリンプは「赤」だったのです。
その赤を、より赤く、より広い範囲へ発色させることを目指して、選別改良が進められていきました。
台湾の公的資料には、2002年に黃琪文氏が「黑殼蝦」から赤色個体を選育し、「火焰蝦(現在のレッドチェリーの祖)」を発表したとする記録があります。
ただし、この「2002年」という年代は、現在確認できている限り、2015年に発表された後年の資料によるものです。
そのため本稿では、「2002年に火焰蝦が発表されたとする記録がある」として扱います。
その後、2005年には台湾の水族店で「玫瑰蝦(méi guī xiā/メイ・グイ・シア)」という名称が実際に使われていたことが、同時代の飼育記録から確認できます。
「玫瑰」は中国語で「バラ」を意味します。
さらに2007年末には、「極火蝦」という名称も確認できます。
こうした「玫瑰」「極火」という、より強い赤色をイメージさせる呼び名が次々と現れていることは、2002年の火焰蝦(レッドチェリー)の発表以降、より赤く、より発色の強い個体を目指した選別改良が継続して行われていたことを示唆しています。
つまり2000年代の赤系は、新しい色の品種を作るというよりも、まず「赤をどこまで強くできるか」という方向へ改良が進んでいたと考えられます。
2000年代の赤系に関する記録
| 年代 | 地域 | 品種・系統 | 確認できる記録 |
|---|---|---|---|
| 2002年 | 台湾 | 火焰蝦 | 黃琪文氏が黑殼蝦から赤色個体を選育し発表したとする後年の公的記録 |
| 2005年 | 台湾 | 玫瑰蝦 | 台湾の水族店で「玫瑰蝦」という名称が使用されていたことを同時代の飼育記録から確認 |
| 2007年末 | 台湾 | 極火蝦 | 「極火蝦」という名称の使用を確認。赤色をさらに強める方向への選別が進んでいたことを示す記録 |
ここで注意したいのが、現在の赤系の品種名(≒グレード)を、そのまま2000年代へ当てはめないことです。
当時の画像を見る限り、2000年代に「極火」と呼ばれていた個体は、現在のPainted Fire Redほど赤色は濃くなく、体の透けも非常に目立ちます。
現在のグレード基準で見れば、せいぜい「ハイグレードのRed Cherry」程度に見える個体も含まれています。
つまり、
Red Cherry → Sakura → Fire Red → Painted Fire Red
という現在のグレード分類を、そのまま「この順番で別々の品種が誕生した歴史」と考えることはできません。
むしろ、比較的早い段階で成立した赤系の育種集団の中で、
より赤く、より広い範囲へ、さらに脚まで発色させる
という方向への選別が長期間続けられ、その延長上に、現在Painted Fire Redと呼ばれる高グレードの赤系が成立したと考える方が自然です。
この流れは、一般的に紹介されているFamily Treeとも矛盾しません。
「火焰蝦」「玫瑰蝦」「極火蝦」「Sakura」など、赤系シュリンプの名称とグレードがどのように変化してきたのかについては、別記事で詳しく検証しています。
2010年 ― Red Riliの登場
前記のように、赤色をより強く、より全身へ広げていく選別が進む一方、同じ赤系ではまったく異なる方向への品種改良も進められました。
それがRiliです。
2010年、台湾で新品種として「琉璃蝦」が発表された記録があります。
※この品種はチェリーシュリンプとしては珍しく、作出者が王國中氏、発表年が2010年とはっきりしています。
琉璃蝦(liú lí xiā/リウ・リー・シア、後年のRed Rili/レッドルリー)は、頭部と尾部に赤色を残しながら、胴体中央部の赤みが抜け、青みがかったクリアになるという独特の表現を持っています。
赤色を全身へ広げていったPainted Fire Redとは、同じ赤系から分かれた、まったく別方向への選別と見ることができます。
このRed Riliの成立は、その後の青系チェリーシュリンプの歴史を考えるうえでも重要になります。
Riliから生まれた最初の「青」
Red Riliの選別を続ける中で、胴体中央部のクリア部分が、より明瞭な青色を帯びる個体が現れます。
初期に「Blue Rili」と呼ばれたのは、現在「ブルールリーシュリンプ」として流通している品種――頭部と尾部が濃紺から茶色で、胴体部がクリアな紺色となるタイプ――ではありませんでした。
赤い頭部と尾部を残し、胴体部分がブルークリアになったもの。
これが初期型Blue Riliです。
そこから赤色部分を減らし、青い透明感を全身へ広げる方向へ選別されたものが、Full Blue Riliや藍絲絨(ブルーベルベット/Blue Jelly)へとつながっていきます。
そのため本稿では、この流れを次のように整理します。
Red Rili
↓
Blue Rili(初期型)
├ Full Blue Rili
└ 藍絲絨(ブルーベルベット/Blue Jelly)
現在「ブルールリーシュリンプ」として流通しているものには、初期型Blue Riliとは異なる、後年に成立した別表現も含まれています。
そのため、歴史上の「Blue Rili」と、現在の商品名として使われている「ブルールリー」を、そのまま同じものとして扱わない方が分かりやすいでしょう。
また、藍絲絨、ブルーベルベット、Blue Jellyなど、青系チェリーシュリンプの名称は地域や時代によって複雑に変化しています。
この名称の変遷については、別記事で詳しく検証しています。
2010年代前半 ― 色系統が次々と明確になる
2010年代に入ると、赤やRiliだけではなく、Yellow、Orange、Chocolate / Schoko、Blackなど、現在につながる主要なカラーラインの記録が急速に増えてきます。
ここで興味深いのが、後年の資料に残されている系統説明です。
台湾には、Chocolateについて「極火蝦から来た(巧克力蝦從極火蝦而來)」と記した資料があります。
これを現在の極火蝦の基準で考えると、脚先まで赤く発色した極火蝦の中から、特に黒や茶色の濃いものを選別し、Chocolateへ改良していったように思えてしまいます。
しかし、先ほど触れたように、2000年代に「極火」と呼ばれていた個体は、現在のPainted Fire Redのような完成された表現ではありません。
当時の画像を見ると、体の透けも多く、赤の発色も薄く、現在の基準でいえばハイグレードのRed Cherry程度に見える個体も含まれています。
この赤から、色素の濃いChocolateが生まれたというのは、どうにも飛躍があり、不自然な感じがします。
ここから一つの可能性が浮かびます。
「初期育種集団」という考え方
現在のFamily Treeを見ると、
Red
Yellow
Orange
Chocolate / Schoko
と、野生型からそれぞれの色系統がきれいに分かれていったように見えます。
しかし、育種の初期段階から、本当に現在と同じように各カラーラインが明確に分離されていたのでしょうか。
今回確認した記録を年代順に整理すると、実際の育種はもう少し曖昧な状態から始まっていた可能性があります。
野生型から選ばれた個体群の中で選別交配を繰り返し、ある程度、赤、黒・茶、橙、黄、あるいは緑がかった表現で集団をまとめ、それぞれの中でさらに選別・固定していく。
その境界も現在ほど明確ではなく、例えば赤系として選別していた集団の中に色素の濃い個体が現れれば、それを黒・茶系の集団へ移して、そこからさらに選別を続ける。
そのような過程があった可能性です。
本稿では、現在のカラーラインが確立する以前に存在したと考えられる、こうした育種集団を便宜上、
「初期育種集団」
と呼ぶことにします。
これは当時実際に使われていた品種名でも、学術用語でもありません。
複数の資料に残る、一見すると矛盾した系統説明を年代順に整理するために、本稿で使用する整理上の呼称です。
ただし、赤系については比較的早い段階から野生型の赤色個体を選別した記録が残っているため、他のカラーラインよりも早く独立した育種系統として確立していた可能性があります。
それでも、その赤系の育種集団から色素の濃い個体が現れた際に、黒・茶系の育種集団へ移された可能性はあります。
つまり、極火を生み出した赤系の育種集団の中から、後のChocolateにつながる個体が分離されたという事実があり、それが後に「極火からChocolateが生まれた」という認識へ変容した可能性があります。
このように考えると、
「茶系が赤系から発生した」
「Orange系からGreen系が発生した」
といった、現在の完成された品種だけを見れば不自然に思える古い記録についても、すべてを誤りとして否定する必要はなくなります。
現在のカラーラインが確立するまでには、このような初期育種集団が存在し、その中で選別を繰り返しながら、徐々に現在につながる各色の系統が築かれていった可能性は十分に考えられます。
2010年代 ― 色系統の確立と分化
前述したような初期育種集団から、現在につながる各色系統が明確になってくるのが、2010年前後だったと考えられます。
この時期の記録を追うと、赤、オレンジ、イエロー、茶・黒などの単色系統はほぼ確立され、それぞれが品種として発表、あるいは市場に登場しています。
そしてここから、品種改良は次の段階へ進みます。
確立されたそれぞれの色系統から、さらに新しい色や表現が作り出されていくようになります。
その代表が「青」です。
二つの系統から生まれた「青」
先に触れた藍絲絨(ブルーベルベット/Blue Jelly)は、Red Riliを起点とするRili系から生まれた青色です。
一方、Black / Carbon系では、これとは別の青色系統が選別されました。
Carbon RiliからはBlue Carbon Riliへ。
さらにCarbon Rili系統からは、全身を濃い青色で覆うBlue Dreamへとつながる系統が現れます。
こうして「青いチェリーシュリンプ」には、
Rili由来の透明感のある青
と、
Black / Carbon系由来の濃青色
という、育種上の背景が異なる二つの「青」が登場します。
この青系統の違いは、現在一般的に紹介されているFamily Treeにも反映されている重要な違いです。
Chocolate / Schokoから現れた赤
さらに興味深いのが、Chocolate / Schoko系から再び「赤」が現れることです。
ブラッディマリーやレッドオニキスについては、Chocolate / Schoko系からの選別とする育種情報が残っています。
これは、初期のRed CherryからPainted Fire Redへつながる赤系とは別の流れです。
つまり、見た目の色が同じ「赤」であっても、育種上の起源まで同じとは限りません。
このことは、現在の体色だけを見て系統を推測することの難しさをよく示しています。
緑色はさらに複雑だった
緑色系統については、今回の調査でもっとも整理が難しかった部分の一つです。
Green Jadeが広く知られる以前から、台湾の資料には「綠色型」の記述があり、Green Riliも確認できます。
つまり、Green Jadeという完成された品種が登場する以前から、Neocaridinaの育種集団の中には、緑色方向の表現が存在していた可能性があります。
さらにGreen Jadeそのものについても、資料によって系統の説明が一致しません。
一般的なFamily Treeでは、Orange系から派生したとする図が多く見られます。
一方で、Chocolate / Schoko系との関係を示す育種情報も残っています。
この二つの説について調べていくと、興味深いことが分かります。
現在主流となっているGreen Jadeは、濃い緑色で、Chocolate / Schoko系を思わせる濃色系の特徴を持っています。
ところが過去の記録を追うと、それとは異なる、もっとライトグリーンでクリア感の強いGreen Jadeが存在していた痕跡があります。
この初期のライトグリーン系統が、Orange系に近い初期育種集団の中に現れた「緑っぽい」個体を選別交配して作られたものだったとすれば、古くから伝わるOrange系由来説にも一定の説明がつきます。
その後、より濃い緑色を求める選別の中でChocolate / Schoko系との関係が生まれ、現在主流となっている濃色のGreen Jadeへつながった可能性も考えられます。
ただし、現時点でこの育種過程を確定できるだけの記録は確認できていません。
そのため本稿では、Green Jadeについて、
Orange系由来説
と
Chocolate / Schoko系由来説
の両方を残します。
この二つは必ずしも完全に相反する説ではなく、異なる時期・異なるGreen系統について語られた情報が、後に同じ「Green Jade」という名称のもとで整理された可能性も考えておく必要があります。
こうした不確実さもまた、初期のカラーラインを現在の完成された品種分類だけで単純に遡ることが難しい理由の一つです。
2010年代の主な記録
| 年代 | 地域 | 品種・系統 | 確認できる記録 |
|---|---|---|---|
| 2010年 | 台湾 | レッドルリー(琉璃蝦) | 王國中氏が新品種として発表。赤系からRiliという新しい表現が確立 |
| 2011年 | 台湾 | Chocolate(巧克力蝦) | 新品種として紹介され、茶・黒系統が明確になっていく時期の記録が残る |
| 2011年 | 台湾 | 藍絲絨(ブルーベルベット/Blue Jelly) | 新品種として紹介され、琉璃蝦系統から生まれた青系として確認できる |
| 2010年代前半 | 欧州 | Blue Rili(初期型) | Red Riliから、赤い頭部・尾部を残しながら胴体部がブルークリアとなる表現が確認される |
| 2010年代前半 | 欧州 | Green Rili/初期Green系 | Green Jadeが確立する以前から、緑色方向の表現が確認される |
| 2014年 | 欧州 | ブラッディマリー | 現在のブラッディマリーにつながる系統が品評会記録などで明確に確認できる。Chocolate / Schoko系由来とする情報も残る |
| 2014年 | 欧州 | Blue Dream | 現在につながる濃青色系統が確認される。Rili由来の青とは異なるBlack / Carbon側の系統 |
| 2016年 | ドイツ | Green Jade | DaS Garnelenchampionatで入賞。現在のGreen Jadeにつながる系統を確認する基準点となる |
| 2018年 | 台湾 → 欧州 | レッドオニキス | 台湾から欧州への輸入記録を確認。Chocolate / Schoko系との関係を示す情報が残る |
※これ以前にも同じ名称、あるいは類似した表現を持つ個体の記録が確認できる品種があります。本年表では単純な名称の初出ではなく、現在流通している品種・系統へ直結していると判断できる記録を基準として年代を整理しています。
2020年代 ― 「色」から「形質」の選別へ
2020年代に入っても、Neocaridinaの品種改良は止まりません。
ただし、その方向には少し変化が見られます。
主要な色を作るだけではなく、
- Backline
- Rili模様
- 白色被覆
- 殻質や発色密度
- OE(Orange Eye)
など、特定の形質をより強く表現させたり、複数の特徴を組み合わせたりする育種が目立つようになります。
Green Demon
Green Demonは、Green Jadeを基礎として、さらに強い緑色表現を追求した系統です。
Green Demonの育種は2021年、Michael Häsler氏によるDark Green Jadeの雌とBlack OEの雄の交配から始められました。
つまり、Green Jadeだけを単純に濃くしたものではなく、育種過程にはOE形質を持つ系統が実際に関与しています。
そのため、系統関係としては、
Green Jade
+
OE形質を持つ系統
↓
Green Demon
と整理します。
その後、2023年にはドイツで開催されるTGISC(The German International Shrimp Contest)で1位を獲得しています。
一方、Green Jadeそのものにも、さらに新しい表現が現れています。
現在では、緑色の地にオレンジ色が重なるような複雑な発色を見せる個体が現れ始めており、こうした表現は「Green Jade Extreme」として扱われ、コンテストで入賞する個体も出ています。
※AtWellで扱っているGreen Jadeの中にもExtreme表現を見せる個体が現れており、現在これらを選別し、表現を定着させる試みを行っています。
SnowballからSnowstormへ
白色系統についても、同じような選別が行われています。
Snowballは、一般的なチェリーシュリンプとは別種に由来する可能性が高いNeocaridinaとして扱う必要があります。
そのため今回の系統図でも、Red、Yellow、Orange、Chocolate / Schokoなどの本体系統とは接続せず、別枠に置きます。
Snowballを含む白系Neocaridinaの起源と系統については、
「白いチェリーシュリンプの歴史」
で詳しく検証しています。
しかし、その育種方法を見ると非常に興味深いものがあります。
Snowballが持っていた半透明の白色表現から、
より白く、より厚く、より広い範囲を白色で覆う
方向へ選別を続けたものがSnowstormです。
つまり、種・系統は異なる可能性があっても、「既存の形質をさらに強く固定していく」という育種の考え方は、他のチェリーシュリンプと共通しています。
Volcano Rili ― Riliはさらに先へ進む
そして2025年、Rili系ではさらに新しい表現が発表されました。
Red Volcano RiliとOrange Volcano Riliです。
作出者の発表では、それぞれ既存のRed Rili、Orange Riliを基礎としながら、Backline、殻質、発色、Rili模様などをさらに選別した系統として紹介されています。
YellowやOrangeなどのNeocaridinaでは以前から、背中に明瞭なBacklineが入る個体が高いグレードとして評価されることがあります。
Volcano Riliは、こうした既存の評価形質をRili表現の中でさらに強く固定していく方向の育種と見ることができます。
つまり現在のNeocaridina育種は、Riliだけに限らず、
「新しい色を作る」
段階から、
「既存の色・模様・殻質・眼色などを組み合わせ、新しい表現として固定する」
段階へ進んでいます。
2020年代の主な記録
| 年代 | 地域 | 品種・系統 | 確認できる記録 |
|---|---|---|---|
| 2021年 | ドイツ | Green Demon | Michael Häsler氏がDark Green Jade × Black OEから育種を開始 |
| 2023年 | ドイツ | Green Demon | TGISCで1位。Green Demonとしてコンテストで評価される |
| 2023年 | 台湾 | Snowstorm | Larmax作出。Taiwan Shrimp OpenでJelly White Category Champion、Neocaridina Overall Third Placeを獲得 |
| 2024年 | 台湾 | Snowstorm | さらに選別を進め、Larmaxが量産・市場流通開始を発表 |
| 2025年 | ドイツ | Green Jade Extreme | TGISCで入賞。Green Jadeから発展した複雑な発色表現として確認 |
| 2025年 | 台湾 | Red Volcano Rili | LarmaxがRed Riliを基礎とする新しいRili表現として発表 |
| 2025年 | 台湾 | Orange Volcano Rili | LarmaxがOrange Riliを基礎とする新しいRili表現として発表 |
年代を加えて系統図をもう一度見る
ここまで、2000年代初頭から2020年代まで、確認できた記録を年代順に追ってきました。
最初に示した一般的なFamily Treeと比較すると、主要な系統関係そのものは、実際の記録ともかなりよく一致しています。
しかし、そこに年代を重ねることで、系統図だけでは見えなかったものもありました。
- 現在のカラーラインが確立する以前の「初期育種集団」の可能性。
- 同じ系統から異なる色彩表現が現れた記録。
- 異なる系統から似た色が作られた例。
- 複数の起源説が現在まで残っている品種。
- そして、2020年代になっても続いている、新しい形質の選別。
そこで、今回確認した年代記録と複数の起源説を一般的なFamily Treeへ重ね、整理したものが下の図です。

(クリックで拡大)
この図で野生型の直下に置いた「初期育種集団」は、実在した品種名ではありません。
現在のRed、Yellow、Orange、Chocolate / Schoko、Blackといった系統が明確になる以前に、複数の色彩表現を含んでいたと考えられる育種集団を表現するため、本稿で便宜的に置いたものです。
また、線で結ばれているからといって、「この一つの品種から、次の品種が直接誕生した」ことを意味するものではありません。
資料から確認できる育種上の関係や、現在まで伝えられている起源説を整理した見取り図としてご覧ください。
チェリーシュリンプの歴史は、まだ完成していない
今回、チェリーシュリンプの品種改良史を整理するため、改めて台湾の公的資料、当時の記録、ブリーダーの発表、欧州への輸入記録、品評会記録などを調べ、年代順に並べてみました。
その結果、最初に示した一般的なFamily Treeは、主要な系統関係を理解するものとして非常によくできていることが分かりました。
一方で、そこへ「年代」という軸を加えると、現在の完成された品種だけを見ていては分からない育種の姿も見えてきます。
特に重要なのは、現在の品種、グレードをそのまま過去へ遡らせないことです。
2000年代の「極火」は、現在の「極火」と同じ表現ではありませんでした。
初期のBlue Riliも、現在では別の表現のブルールリーがその名で呼ばれています。
Green Jadeのように、複数の起源説が残る品種もあります。
名称も、グレードも、系統も、20年以上にわたる品種改良の中で変化してきました。
そして、この歴史は過去のものではありません。
Green Demon、Snowstorm、Volcano Riliなど、現在も新しい表現は作られ続けています。
おそらく今後、新しい資料や作出者による記録が見つかれば、今回の年表やAtWell版系統図にも修正が必要になるでしょう。
そのため、この系統図を「完成した正解」とするのではなく、
現時点で確認できた記録を年代順に整理した、現段階での着地点
として公開します。
新しい資料が確認できた場合には、今後も年表と系統図を更新していきます。