SHRIMP ENCYCLOPEDIA / HISTORY

スノーボールシュリンプにまつわる謎 ー別品種? 異色のチェリーシュリンプー

Neocaridinaの歴史

白い卵からたどる、もうひとつのNeocaridinaの系譜

スノーボールシュリンプ
半透明から乳白色の体色を持つスノーボールシュリンプ。雌が抱える真っ白な卵は、この品種を特徴づける大きな特徴の一つです。

日本では「スノーホワイトシュリンプ」という名前でも流通している、白色系のNeocaridina。

白から乳白色の体を持つ美しいシュリンプですが、海外の古い資料を調べていくと、日本で馴染みのある「Snow White」よりも、Snowball Shrimp、あるいはWhite Pearl Shrimpという名前が古くから使われていることが分かります。

では、なぜ「Snowball」なのでしょうか。

その理由は、単に体が白いからではありません。

雌が抱卵したときに見える、真っ白な卵。

腹部に白い卵をいくつも抱えた姿が、まるで小さな雪玉を抱えているように見える。そこからSnowballという名称が使われるようになったとされています。

ところが、チェリーシュリンプの系統を調べてきた立場から見ると、この「白い卵」は少し気になる特徴です。

現在流通するレッド、イエロー、オレンジ、ブルーなどのチェリーシュリンプの多くは、Neocaridina davidiを基礎とするカラーシュリンプとして整理されています。

その中にスノーボールを並べれば、「白色方向へ選抜されたチェリーシュリンプ」と考えるのは自然です。

実際、後年の台湾資料には、オレンジ系の香吉士、いわゆるSunkistから雪球蝦へつながるように読める系統図も存在します。

しかし古い記録を遡っていくと、どうも話はそれほど単純ではありません。

スノーボールは、本当に他のチェリーシュリンプと同じ系統から生まれたのでしょうか。

その起源を追ってみると、最初にたどり着いた場所は台湾ではありませんでした。

ドイツです。

CHAPTER 01

「Snowball」という名前を生んだ白い卵

スノーボールシュリンプの特徴として、まず目に入るのは半透明から乳白色の体です。

しかし、この品種を古くから知る海外の資料では、体色と同じくらい頻繁に白い卵について触れられています。

Snowballという名称も、この白い卵に由来すると説明されることが多く、抱卵した雌の腹部に真っ白な卵が並ぶ姿が、小さな雪玉を抱えているように見えることから名付けられたとされています。

Snowballは、「白い体のシュリンプ」というだけではなく、「白い雪玉のような卵を抱えるシュリンプ」という特徴を含んだ名前だったと考えられます。

もちろん、卵が白いというだけで別種だと判断することはできません。

卵の色には色素や卵黄成分、発生段階など複数の要因が関係する可能性があります。そのため、「白い卵だからN. davidiではない」と結論づけることはできません。

それでも、一般的なチェリーシュリンプとはかなり印象の異なる特徴です。

そこで今回は体色ではなく、この品種がいつ、どこで、どのような名前で記録されていたのかを遡ってみることにしました。

すると、現在確認できるかなり古い英語圏の記録として、2006年まで遡ることができます。

CHAPTER 02

2006年、すでに欧米に存在していたSnowball

2006年前後の英語圏のアクアリウム記録には、Snowball Shrimpがすでに登場しています。

そこで使われていた学名表記の一つが、

Snowball Shrimp / Neocaridina cf. zhangjiajiensis “white”

というものでした。

つまり、少なくとも当時の流通・愛好家の世界では、Snowballは現在のチェリーシュリンプに一般的に使われるNeocaridina davidiの白色品種としてではなく、別のNeocaridinaを基礎とした白色系統として扱われていたことが分かります。

さらに、その作出者として後年の複数の資料に登場するのが、ドイツのブリーダーUlf Gottschalkです。

SnowballやWhite Pearl、そして青色系のBlue Pearlについて、当時N. cf. zhangjiajiensisなどと呼ばれていた野生系統から選抜されたものとする説明が残されています。

ここで重要なのは、現在の正確な学名を決めることではありません。

Snowballが流通し始めた時代に近い記録の中で、すでにレッドチェリーシュリンプとは異なるNeocaridinaとして扱われていたという点です。

もしSnowballが、後に台湾のSunkistなどから作られた白色品種なのであれば、2006年前後にすでに別系統名で欧米に存在していた記録を説明する必要があります。

そしてこの疑問をさらに深くする記録が、台湾側にも残されています。

CHAPTER 03

2009年の台湾――すでに二つの「Snowball説」があった

台湾側の古い記録を追うと、遅くとも2009年にはすでに「雪球蝦」という名称が一般の愛好家の間で使われていました。

ところが、ここで非常に興味深いことが分かります。

同じ2009年の台湾で、Snowballの系統について異なる説明がすでに存在しているのです。

2009年6月|雪球蝦は「黑殼蝦とは別系統」

2009年6月13日に台湾のPTT Aquarium板へ投稿された淡水観賞エビの解説では、雪球蝦について、当時の学名表記としてNeocaridina cf. zhejiangensis var. whiteが使われています。

さらに、ドイツで人工改良された系統として紹介され、Ulf Gottschalkの名前も挙げられています。

この説明は、2006年前後の欧米で見られるSnowball / White Pearlの系統説明と非常によく似ています。

さらに同資料では、雪球蝦、Blue Pearl系統などについて、台湾で「黑殼蝦」と呼ばれていたカラーシュリンプの改良系統とは異なる由来を持つものとして説明しています。

野生型Neocaridina→
ドイツで選抜→
Snowball / White Pearl→
台湾へ流通

これだけを見ると、Snowballはアジアの野生Neocaridinaが欧州へ渡り、ドイツで白色品種として改良された後、再び台湾へ入ったと考えるのが自然です。

しかし、そのわずか数か月前の記録を見ると、別の説明が登場します。

2009年2月|「黑殼蝦・玫瑰・黃金米蝦・雪球蝦は同種」

2009年2月17日のPTT Aquarium板の投稿では、混泳・交雑について説明する中で、

「黑殼蝦、玫瑰(極火)蝦、黃金米蝦、雪球蝦は、同じ種の異なる色彩表現なので交雑する」

という趣旨の説明がされています。

投稿者自身も冒頭で、混種に関する情報には意見の違いがあり、確定したものではないと断っています。したがって、これは分類学的な証明ではなく、当時の台湾の愛好家がどのように理解していたかを示す記録として見る必要があります。

しかし、ここが今回の調査では非常に重要です。

2009年の台湾には、すでに少なくとも、

ドイツ由来の別系統説↔
黑殼蝦と同種のカラー型説

という二つの認識が存在していたことになります。

つまりSnowballの系統をめぐる混乱は、近年になって始まったものではありません。

台湾へSnowballが広がり始めたと思われる2000年代末には、すでにその正体について異なる説明が並存していた可能性があるのです。

CHAPTER 04

2015年、「Sunkistから雪球蝦」という系統図が現れる

そして2015年になると、さらに重要な資料が登場します。

国立台湾海洋大学・水産養殖学系の黃章文氏が発表した「臺灣觀賞米蝦種原品系開發與分子選育應用」です。

この資料は2015年11月23日に『農業生技產業季刊』第43期へ掲載されたもので、台湾の観賞用Neocaridinaの品系開発についてまとめています。

その中に掲載された系統図を見ると、黑殼蝦から派生したカラーシュリンプの流れの中で、オレンジ色の香吉士(Sunkist)から雪球蝦へつながるように読める系統が示されています。

黑殼蝦→
カラー系統→
香吉士→
雪球蝦

もしこの図を厳密な血統図として読むのであれば、Snowballは一般的なN. davidi系カラーシュリンプから生まれた白色品種ということになります。

しかし、ここまで見てきた年代を並べると、簡単にはそう結論づけられません。

2006年:欧米で別系統のNeocaridinaとしてSnowballが流通
2009年:台湾で「別系統説」と「同種カラー型説」が併存
2015年:Sunkistから雪球蝦へつながる系統図が登場

この順序を見ると、2015年の系統図だけを根拠に、2006年以前のSnowballまで遡って「Sunkistから作出された」と考えるのは時系列上かなり難しく見えます。

では、この矛盾をどう考えればよいのでしょうか。

ここから先は、現在確認できる資料をもとにした推論です。

可能性1|同じ「雪球蝦」という名前で、異なる白色系統が流通した

もっとも単純なのは、ドイツ系Snowballとは別に、台湾でSunkistなどから白色個体が選抜され、その個体にも「雪球蝦」という名称が使われた可能性です。

観賞エビの世界では、遺伝的な系統名よりも外見をもとに流通名が付けられることがあります。

白く見えるNeocaridinaが複数の系統から作られ、それらが同じSnowball、雪球蝦として扱われたのであれば、古い欧米記録と2015年の台湾資料は必ずしも矛盾しません。

可能性2|台湾導入後にカラーシュリンプと交配された

もう一つ考えられるのは、ドイツ系Snowballが台湾へ導入された後、現地のNeocaridina系統と交配された可能性です。

2009年の台湾で、すでに「黑殼蝦と雪球蝦は交雑する」という認識が存在していたことを考えると、少なくとも愛好家の水槽内で両系統が接触する機会は十分にあったと考えられます。

もし交配と再選抜が行われていれば、後世のSnowballが初期ドイツ系統と遺伝的に同一でなくなっていても不思議ではありません。

可能性3|2015年の図を厳密な遺伝系統図として読むべきではない

さらに、2015年の資料が台湾で開発・流通してきた品種を整理したものであり、図中の接続が必ずしもすべて「この品種から直接作出された」という意味ではない可能性も考える必要があります。

この資料が観賞米蝦の品系開発についてまとめた専門資料であることは確認できますが、個々の線がどの程度まで遺伝的な親子関係を示すものなのかについては、図だけから慎重に判断する必要があります。

現時点でのAtWellの考え

それでも、品種の起源については一定の方向性が見えてきます。

  • 2006年前後にはSnowballが欧米ですでに流通していた
  • 当時はN. cf. zhangjiajiensisなど、一般的なチェリーシュリンプとは異なるNeocaridinaとして扱われていた
  • ドイツのUlf Gottschalkによる改良系統とする記録が存在する
  • 2009年の台湾では、すでに「別系統説」と「同種カラー型説」の両方が見られる
  • 2015年にはSunkistから雪球蝦へつながるように読める系統図が現れる
  • 古くからSnowballを特徴づける形質として、白い卵が記録されている

これらを時系列で考えると、少なくとも最初期のSnowballは、一般的なNeocaridina davidiのカラーシュリンプから白色個体を選抜して作られたものではなく、別の野生Neocaridinaを祖先としてドイツで成立した改良系統だった可能性が高いとAtWellでは考えています。

ただし、現在流通するすべてのSnowballを同じ系統とみなすことには慎重であるべきでしょう。

むしろ今回の資料から見えてくるのは、「Snowball」という名前そのものが、20年近い流通と繁殖の中で複数の系統を内包する名称になった可能性です。

そして、ここでもう一度最初の疑問に戻ります。

Snowballという名の由来となった真っ白な卵。

この特徴が遺伝的に何を意味するのかは、まだ分かりません。

しかし、もし古いドイツ系統のSnowballと、後に台湾で語られるSunkist系の白色個体を比較できるのであれば、体色だけではなく、卵色や繁殖形質にも違いがあるのかは非常に興味深いポイントです。

レッド、イエロー、オレンジ、ブルー、ホワイト。

現在では体色によって一緒に分類されることの多いNeocaridinaの改良品種ですが、同じように飼育でき、同じ「カラーシュリンプ」として流通しているからといって、そのすべてが同じ祖先から生まれたとは限りません。

日本では「スノーホワイト」という分かりやすい名前でも知られる、この白いエビ。

その雌が抱える小さな「Snowball」は、他のチェリーシュリンプとは少し違う歴史を、今も残しているのかもしれません。

SOURCES

今回参照した主な資料

※本記事では、品種の成立史を検討するため、研究・専門資料だけでなく、当時の名称・学名・系統認識を確認できる同時代の販売記録や愛好家による投稿も参照しています。個人投稿に記載された分類や交雑情報は学術的な確定事項としてではなく、当時どのような認識が存在したかを示す資料として扱っています。