SHRIMP ENCYCLOPEDIA / HISTORY
青いチェリーシュリンプの名前をたどる
Blue Velvet、Blue Dream、ダークブルー――なぜ同じ名前で違うエビが売られているのか
青いチェリーシュリンプを探していると、「販売店によって、同じようなシュリンプなのに名前が違う」、あるいはその逆に、「写真ではずいぶん違って見えるのに、同じ名前が付いている」。そんな疑問を持ったことはありませんか?
これは青色に限った話ではありません。レッド系でもグリーン系でも、チェリーシュリンプの品種を調べていくと、同じような問題に何度も出会います。
犬を例に考えてみると分かりやすいかもしれません。「柴犬」「ゴールデン・レトリーバー」「トイ・プードル」と聞けば、多くの人がだいたい同じ姿を思い浮かべるでしょう。猫でも「アメリカン・ショートヘア」「メインクーン」「ベンガル」と聞けば、それぞれ特徴的な姿があります。
犬や猫の世界では、長い品種改良の歴史の中で品種ごとのスタンダードが作られ、それを共有する団体や仕組みが発達してきました。
ところが、観賞用シュリンプの世界はまだ歴史が浅く、犬や猫のように世界的に品種名や品種標準を管理する仕組みが確立されていません。
台湾で付けられた名前が日本では別の名前になったり、ヨーロッパで違う名称が広まったり、似た表現を持つ別系統に同じ名前が使われたりしてきました。
近年では、ドイツを中心としたヨーロッパのコンテストなどを通じて、品種や表現を一定の基準で分類しようという動きも見られます。それでも、世界中のブリーダーや販売店が同じ名前を同じ意味で使うところまでは来ていません。
これは購入する側にとって、意外と困った問題です。「写真で見た、あの青いシュリンプが欲しい」と思って名前を調べても、同じ名前の商品を探した先に、まったく違う姿のシュリンプが並んでいることがあるからです。
そこで今回は、特にこの問題が分かりやすい青系のチェリーシュリンプを例に、名前の歴史を少し遡ってみましょう。
どの名前が「正しい」のかを決めることが目的ではありません。その名前はどこから来て、もともとはどんなシュリンプを指していたのか。それを知ることで、自分が思い描いている青いシュリンプを選ぶ手掛かりにしてみましょう。
CHAPTER 01
藍絲【龍】――「ランシーロン」の誤解
日本で青系シュリンプの名前を調べていると、藍絲龍(ランシーロン)という名前に出会うことがあります。
最近シュリンプを飼い始めた方には馴染みのない名前かもしれませんが、以前からチェリーシュリンプを飼育している方なら、聞き覚えがあるかもしれません。
ところが台湾側の資料を調べてみると、面白いことに気付きます。台湾で使われているのは、藍絲龍ではなく、藍絲絨なのです。
違うのは最後の一文字。「龍」ではなく「絨」。
「絲絨」は中国語で、ビロードやベルベットを意味します。つまり、藍 + 絲絨 = Blue + Velvet。そのままBlue Velvetなんですね。
しかも「藍絲絨」を台湾華語で読むと、lán sī róng。日本人の耳には「ラン・シー・ロン」と聞こえます。
一方、「絨」という漢字は日本人にはあまり馴染みがありません。そこで、日本へ名前が伝わる過程で、「ロン」という音に馴染みのある「龍」の字が当てられたのではないか――という可能性が見えてきます。
もちろん、誰が最初に「藍絲龍」と書いたのかまでは確認できていませんので、ここは推論です。
ただし、少なくとも「藍絲龍」はBlue Velvetを意味する中国語ではなく、台湾では「藍絲絨」が使われていることは確認できます。
では、その本来の「藍絲絨」とは、どんなシュリンプだったのでしょうか。
CHAPTER 02
2011年、台湾で登場した「藍絲絨」
時間を2011年まで戻してみましょう。
2011年9月、台湾国際観賞魚博覧会で「藍絲絨蝦」が新品種として紹介されました。
当時の台湾メディアが紹介したその姿は、透明感を持つターコイズブルー。現在Blue Dreamと呼ばれているような濃紺のシュリンプとは、かなり印象が違います。
さらに当時の台湾業界関係者は、藍絲絨を「琉璃蝦家族的一員」、つまりRili(ルリー)系統の一員として説明しています。
当時「Rili」といえば、基本的には現在のレッドルリーに相当する、赤い頭部と尾部+透明な胴体というシュリンプでした。
その改良過程で、透明だった胴体部分に淡い青色が現れる個体が登場します。当時の海外資料では、こうした個体をBlue Riliと呼んでいる例があります。
そして、そこから赤い部分を減らす方向へ選別していったものが、全身淡い水色のクリアブルーへつながったと考えられています。
翌2012年のヨーロッパ側の資料にも、台湾から入ってきたクリアブルー系について、Blue Riliから赤色部分をなくす方向へ改良されたものという説明が残っています。
台湾では、藍絲絨=Blue Velvet。一方、ヨーロッパでは同じようなクリアブルー系に、Blue Jellyという名前が広まっていきました。
AtWellでは現在も、この台湾系の淡い水色で透明感のあるタイプを「ブルーベルベット」と呼んでいます。
これは当店が独自に付けた名前ではありません。2011年の台湾で「藍絲絨」として紹介された初期の姿と、その名称がそのままBlue Velvetを意味することから、当店ではこの名称を採用しています。
なお、藍絲絨を最初に作出した人物やファームについては、現在確認できる資料からは特定できません。
当時の台湾では、政府も観賞魚・観賞エビを高付加価値の輸出産業として積極的に育成していました。研究、養殖、検疫、輸出、海外へのPRまで、個人だけではなく台湾の観賞水族産業全体を育てる取り組みが進められていた時代でもあります。
これが作出者名が残っていない直接の理由とは言えませんが、藍絲絨も、そんな台湾観賞水族産業の成長期に登場した品種の一つでした。
CHAPTER 03
もう一つの青――Blue Dream
ここまでなら、話は比較的単純です。
ところが、ほぼ同じ時期に、もう一つの青いチェリーシュリンプが登場します。
Blue Dreamです。
そして台湾では、濃色ブルー系に、夢幻藍絲絨、あるいは夢幻藍という名称が使われています。
ここで、また名前を見てみましょう。「藍絲絨」に「夢幻」が付いている。つまり文字だけを見れば、夢幻藍絲絨は藍絲絨の発展型のように見えます。
さらに「夢幻」は、英語の Dream にも通じる言葉です。
そう考えると、藍絲絨=Blue Velvet、そして夢幻藍絲絨=Blue Dream?という関係を想像したくなります。
さらにこれは、なぜ濃色ブルーにもBlue Velvetという名前が使われることがあるのかを考える、一つの手掛かりにもなります。もともとの名前そのものに「藍絲絨=Blue Velvet」が含まれているからです。
そして、さらに話を複雑にする資料があります。
海外には、Carbon Rili(カーボンルリー/当店販売名:ブラックルリー)から濃色ブルーを選別し、Blue Dreamへ発展させた育種記録が残っているのです。
Carbon Riliについて詳しく説明すると、それだけで一つの記事になってしまいますので、ここでは簡単にしておきましょう。
Carbon Riliは、Black Sakuraなどにつながる黒~チョコレート系統から生まれた、黒いRili表現を持つチェリーシュリンプです。
そのCarbon Riliの中から、黒い表現が減り、青い体色が強く現れる個体を選別する。さらに濃い青を選ぶ。そうしてBlue Dreamへ発展させた育種記録が残されています。
つまり、青いチェリーシュリンプには大きく見ると、赤いRili側から生まれた、透明感のある青と、黒~チョコレート系統側から生まれた、濃い青という異なる流れが見えてきます。
当店で「ダークブルー」と呼んでいる濃色ブルーも、後者のBlue Dream系統に相当するものとして扱っています。
CHAPTER 04
名前が似ているから、同じ血統とは限らない
ここまで来ると、一つの大きな問題が見えてきます。
台湾では、藍絲絨、そして夢幻藍絲絨という非常によく似た名前が使われています。
しかし、海外の育種記録を見ると、Blue DreamにはCarbon Riliから作られた血統も確認できます。
つまり、「夢幻藍絲絨」という名前だから、必ず藍絲絨を濃く改良した血統であるとは言えません。
逆も同じです。「Blue Dream」という名前だから、世界中のBlue Dreamがすべて同じCarbon Riliを祖先とする血統であるとも限りません。
異なる地域で似た表現が別々に選別され、後から同じ商品名でまとめられた可能性もあります。ある地域で付けられた名前が、輸出先で翻訳されたり短縮されたりし、さらに別の地域へ渡る過程で別の意味を持つようになった可能性もあります。
古い育種記録が残っていなければ、現在の個体を見ただけで、その歴史を完全に復元することはできません。
名称の相似は、系統の同一性を保証しない。
同じ品種名で流通していても、必ずしも同じ系統とは限らない。
「Blue Velvet」という名前がクリアブルーにも濃色ブルーにも使われていることは、その分かりやすい例でしょう。
だからこそ、品種名はそのシュリンプの歴史を知る大切な手掛かりではあっても、血統証明書ではないのです。
CHAPTER 05
同じ血統でも、同じ姿とは限らない
さらに話を難しくする事情があります。
仮に同じ起源を持つ血統だったとしても、現在の姿まで同じとは限りません。チェリーシュリンプの品種改良は、今も続いているからです。
たとえばBlue Dream。品種として名前が付いたところで、改良が終わったわけではありません。
より濃い青。より均一な発色。より完成度の高い個体。
そうした個体を何世代にもわたって選別していけば、同じBlue Dreamという名前のままでも、初期の個体と現在の高グレード個体では、「本当に同じ品種?」と思うほど見た目が変わることがあります。
ここでいう「新しい血統」とは、新しく別の品種が作られたという意味ではありません。同じ品種の中で選別改良がさらに進み、グレードが向上した新しい世代の血統という意味です。
したがって同じ品種名でも、血統の新しさによって見た目には大きな差が生まれます。
さらにチェリーシュリンプには、もう一つ厄介な問題があります。先祖返りです。
非常に美しい親同士を繁殖させても、すべての子供が親と同じ表現になるとは限りません。子世代、さらに孫世代と繁殖を続ける中で、祖先に近い色や、その品種が成立する途中で持っていた表現が再び現れることがあります。
つまり、親世代のグレード=子世代のグレード=孫世代のグレードとは限らないのです。
選別を続けることで高いグレードを維持し、さらに改良していく。逆に無選別で繁殖を続ければ、数世代後には最初に購入した個体とはかなり違った集団になることもあります。
これも、「同じ名前なのに、別物に見える」という現象を生み出す理由の一つです。
CONCLUSION
名前は手掛かり。でも、血統証明書ではない
ここまで青系チェリーシュリンプの名前を追ってきました。
最初の疑問に戻ってみましょう。なぜ、同じようなシュリンプなのに名前が違い、同じ名前なのに違うシュリンプがいるのでしょうか。
理由は一つではありません。
- 地域によって違う名前が付けられた。
- 異なる系統に同じ名前が使われた。
- 同じ品種でも、選別改良によって血統のグレードが変化した。
- 繁殖過程では、先祖返りや表現のばらつきも起こる。
こうした事情がすべて重なって、現在のチェリーシュリンプの品種名が作られています。
だから、「Blue Velvetだから、この色」、「Blue Dreamだから、この血統」と、名前だけから判断することはできません。
大切なのは、「その販売者が、その名前でどんなシュリンプを指しているのか」。そしてもう一つ、「そのシュリンプが、どこから来た血統なのか」を見ることだと私たちは考えています。
AtWellの考え方
AtWellでは、長年にわたり改良シュリンプを生産してきた台湾の老舗ファームから直接輸入した血統を中心に扱っています。
もちろん、それだけで何世代も前までの完全な血統図が分かるわけではありません。今回見てきたように、チェリーシュリンプの世界には、そもそも詳細な育種記録が残されていない品種が数多く存在します。
それでも、どこから来たのか分からない、どのような系統なのか分からない、名前だけが付けられて流通している――そうした個体ではなく、現在の表現、繁殖したときに現れる特徴、台湾での流通名称、そして過去に残された育種記録を照らし合わせることで、少なくとも「この血統は、おそらくこの系統に位置する」と推論できるだけの素性を持った血統を扱うことを大切にしています。
今回取り上げた青系でも、当店では台湾側で使われてきた名称や、実際に維持してきた血統の特徴を踏まえて、透明感のある淡い水色の「ブルーベルベット」と、濃く深い青色の「ダークブルー」を別の血統として管理しています。
世界のどこかでは、どちらも「Blue Velvet」と呼ばれているかもしれません。
だからこそ私たちが大切にしたいのは、「何と呼ばれているか」だけではなく、「どんな素性を持つシュリンプなのか」。
そして、分かっていることはできる限り調べてお伝えし、分からないことについては、推論と事実を区別してお伝えする。品種名がまだ完全には統一されていないチェリーシュリンプを扱う専門店として、AtWellではその姿勢を大切にしています。